「戦争の時代の子どもたち」(吉村文成)①

あの教育の時代に戻ってはいけない

「戦争の時代の子どもたち」
(吉村文成)岩波ジュニア新書

本書は単なる戦時中の生活の様子を
説明したものではありません。
国民学校における当時の5年生が、
毎日の生活を
絵日記として表したものをもとに、
当時の子どもたちの戦争に対する
見方・考え方を追ったものなのです。

冒頭16ページにわたる
カラーページが圧巻です。
子どもたちの絵日記風、
いや絵日記などという
ちゃちなものではありません、
絵巻物ともいえるような
鮮やかな学級日誌を見るだけで、
この本を手にした価値があります。

本書は戦争を扱っていますが、けっして
暗い内容ばかりではありません。
それどころか、
描いた絵の鮮やかさからは、
子どもたちの
明るい気持ちがうかがえます。
今までの「戦争時代」のイメージとは
かけ離れた感じがしました。

なぜ子どもたちの学級日誌から
悲壮感がないか。
それは本文を読んでわかってきました。
子どもたちは戦争が正しいことも、
戦争に勝つことも、これっぽっちも
疑っていないからなのです。

「今年は大東亜戦争に勝つため、
 私たちの手で、
 増産に励みましょう。」
「いつもいつも空に来ているB29を
 いっきでもわたしたちが
 たたきつぶしましょう。」
「冷たい水でも
 兵隊さんのことを思うと平気です。」
「日本の国が早く勝って、
 この大東亜が
 楽しく暮らせるようになるように
 お祈りをしました。」

こんな文章が載っている
小学校の学級日誌、
恐ろしくなりませんか。
当時、どの小学校でも
このような洗脳が行われ、
戦争完遂の
「空気」が出来ていたことを想像すると、
背筋が寒くなる思いです。
大人が過去の体験を語り紡ぐような
「戦争語り」は数多くありますが、
当時の子どもが、
子どもの目線で戦争を語った資料は
貴重だと感じます。

こうした教育の時代に
後戻りしてはいけないという気持ちを
強く持ちました。
でも、その可能性が
ないわけではないのも事実です。
教員は公務員として
国や県からの指示を
忠実に守らなければならない
義務があります。
政権が意図的にそうした操作を行えば、
教育の場は数年間で
ここに描かれている状況に
逆戻りしてもおかしくありません。

子どもたちに読んでほしい
一冊である以上に、
大人のあなたにぜひ読んでほしい
一冊です。ぜひご一読を。

(2020.6.3)

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